INTERVIEW

フレデリック
オフィシャルインタビュー
Chapter.2

Text&Interview
MUSICA 編集長 有泉智子

次のフェーズの始まりを告げる新曲“飄々とエモーション”
フレデリックが貫いてきた/貫いてゆくアティチュード
変わらないものと、変わらず進むために変わってゆくもの

7月11日にリリースされるEPの表題曲であり、この度、先行配信リリースされた“飄々とエモーション”。神戸ワールド記念ホールでのライヴの一番最後、アンコールからエンドロール映像が流れ終わった後に、4人が突如再びステージ上に登場し、「TOGENKYOの先を見せる」という言葉とともに初披露した楽曲だ。フレデリック印とも言うべき印象的なリフと鍛え上げたリズム・セクションでダンサブルに聴かせつつも、メリハリのある構成、健司の歌を強く自由に羽ばたかせるための空間を意識したアレンジ&サウンド・プロダクションによって、非常にフレデリックらしい曲でありながらも明確にこれまでのフレデリックとは一味違う、アンセム性の高いメッセージ・ソングに仕上がっている。ワールド記念ホールのステージ上で宣言した通り、TOGENKYOの先、つまり次なるフレデリックを見せる楽曲だ。

――“飄々とエモーション”は『TOGENKYO』リリース後、ツアー中に作った楽曲なんですか。
康司:「そうですね。『TOGENKYO』ツアーを回ってる時は本当にいろんな感情が動いたんですよ。いつだってそうですけど、その時々に追い風も向かい風もあるじゃないですか。で、追い風の時って自分のプライドが重過ぎたらそこから動けないし、逆に向かい風の時は自分のプライドをしっかり持っていないとどこか変な方向へ飛ばされてしまう。だからこそ僕らのバンドは、その度に『今はこのまま行こう』みたいなことを話し合うことも多いんですよ。誰にでもなびくわけじゃなく、自分達の生き方はこれなんやっていうのを僕らは大切に貫いてきたし、だからこそ、いろんな楽しい寄り道をしながら新しい道へと動いてこれたんじゃないかと思っていて。『TOGENKYO』の中で“たりないeye”という曲を書きましたけど、メンバー同士いろんな感情や考えを持ってるしそれぞれに喜怒哀楽があるんやけど、それをちゃんとぶつけ合ってちゃんと理解し合いながら、お互いに足りないものを埋め合ってひとつのバンドとして支え合ってきたのがフレデリックのこれまでだと思うし、特に今回のツアーはそうやってひとつになることができたツアーやったと思うんです。で、俺にとってはそれは、ほんまにかけがえのないことで。………神戸ワールドまでのツアーをやってくる中で、最近、自分の中にある怒ったり悲しかったりっていう感情が、誰かのためにあるんやと思えることが多くなったんですよね。俺は今、誰かのために喧嘩したり、誰かのために悲しんだりすることができるようになってるんやなって。それは自信にもなったし、それが自分の中の糧になっていろんな言葉が出てきたんです。その結果でき上がったのが、この”飄々とエモーション“やなって思います」
――楽曲的にも明白に第2章感というか、アリーナ・ライヴをやるようになったバンドとして次に向かうべき場所を見据えた曲だと思うんです。リフやリズムの構造も今までよりもスケールの大きな場所で響きやすいものになっているし、コーラス部も含めてアンセム性の強い展開が意識されてる曲だし。これまでのフレデリックとは一味違うものが出てきてるなって思うんですけど、そういう部分に関しては自覚的だったんですか。
健司:「この曲が出てきた時、アリーナ・バンドとして一段上げるんだっていうことをみんなで共有できてるんだってことはすごく感じましたね。そもそもこの曲ができたきっかけも、ワールド記念ホールでワンマンをやるってことが決まったことやったと思うし。実際、ワールド記念ホールのステージで新曲をやりたいっていう話も出てたから」
――ちゃんとそこにふさわしい、かつ、初アリーナを記念碑的なものだけで終わらせないために、その先に繋がる曲を書こう、と。
健司:「そうですね。僕らはメジャーデビューして4年経って、それなりに経験も積んできて、もう新人とは呼べない位置に来ていて。まだまだ若造ですけど、でも昔と比べたら自信も絶対についてきてるし。という状況の中で自分達のシーンや柱をどうやって作っていけるのかなって考えた時に、この曲は凄く大事になってくるんじゃいかなっていうのはすごく思いました。で、また、そういうタイミングで『飄々と』っていう言葉が出てくるのはフレデリックらしいなと思ってて(笑)」
――確かに。
健司:「僕らはまだまだガンガン下から突き上げていかなきゃいけない時期やっていうのはわかってる上で、『飄々と』っていう言葉が出てくるっていう。康司がこの言葉を出してきた時に『これはフレデリックにしかできひんな!』っていう面白さを感じたし、ここからフレデリックが進むためのひとつの答えを持ってきてくれたなっていう感覚がすごくあったんですよね。だから確信的にこの曲にしようって決めました」
――武くんは康司くんからこの曲が出てきた時、どう思いましたか?
高橋:「僕自身はこの曲、今までのどの曲よりも歌詞に共感していて。バンドとしてありたい姿、向き合いたい姿勢っていうものが、明確にこの曲に出てるなって思うんですよ。メンバーそれぞれが、康司くんがこの曲で言葉にしてくれたことと同じことを思ってたと思う。だからわざわざ『解釈』をする必要もまったくないくらい、今までで一番自然に自分の中に入ってくる曲でしたね。で、アレンジを考える段階に入った時には、確かに神戸ワールドで鳴らすことを念頭において作っていって。その気持ちがアレンジには出てるなとは思います」
赤頭:「アリーナでやるのとライヴハウスでやるのって、聴こえ方が結構違うじゃないですか。それを考えた上で、健司くんがアリーナで歌って一番届きやすいようにしたいって思いながら作ってたんで、自ずとシンプルさみたいなものはみんなそれぞれに意識したんやろうなって思います。やっぱりアリーナでライヴ観てる時って、どんだけメッセージあってもここまで届かへんなって思うことも結構あって、それがもったいないなって感じてたんですよ。だからちゃんとアリーナで後ろまで届くスケール感っていうものを、音源にもしっかり入れたいなっていうのは意識しましたね」
――たとえばリズムを凝ったりとか、オケにテクニカルな要素を入れようと思えばできるバンドだと思うんですけど、この曲は今隆児くんが言ってくれた通り音やリズムの積み方が割とシンプルですよね。広いスペースで効果的に響くことが考えられた組み方がなされているし、同時に、それによって歌をより響かせようという意識も見える。バンドの立ち位置に対する意識の変化が、楽曲の構造も変えていってるなと感じたんですけど。
康司:「次は本当にわかりやすいものにしたいっていうのはあったんですよ。自分達の曲って結構細かい部分もよさやし武器やと思ってるんですけど、でも差し引きも大事やと思ってるから」
――さっき健司くんが言ってたけど、このタイミングで「飄々と」っていう言葉が出てくることは実にフレデリックらしいと思うんですが、ここで歌われる「飄々と」の感覚は、清々しくも強い覚悟を宿したもので。<だから軽妙自在に今の一生分の声で/何不自由なくさらけ出そう/しがらみない心で 間違ってしまう前に>という歌詞がとてもいいと思うし、自分だけが飄々と生きていくという話ではなく、それぞれに様々な感情や価値観を抱えたみんなが自分らしく、自分のままを曝け出して生きていこうということを、相手に対する寛容さも持った上で呼びかけていくメッセージ・ソングだと思いました。何を思ってこの歌詞を書いたんですか。
康司:「『飄々と』っていう言葉がフレデリックらしいなって思ったきっかけは、最初は健司の性格だったりもしたんですよ」
――あ、そうなんだ。
康司:「健司は思ってることをバンドメンバーにも言わずに、人知れず頑張ったりするところがあるんですよ。で、僕の中ではフレデリックも、身軽さも芯の強さも両方持ち合わせてるバンドやし、だからこそいろんな場所にいけるバンドやって思ってて。そういうところから出てきましたね」
――最初は健司くんの性格から、という発言がありましたけど、本人としてはどうですか?
健司:「有泉さんが『あ、そうなんだ』って言った時、僕も『あ、そうなんや』って思ってました(笑)」
全員:「はははははははははははははは」
健司:「でも康司が言うそのイメージは、確かになって思ったんですよね。この1年で自分も変わってきてるなって思うんですよ。自分だけやなくて、ちゃんと人を巻き込んでいって、誰かの気持ちや相手への思いやりも一緒に自分達が行きたい場所へと連れていくんだっていうところに変わっていってる気がしてて。それは僕だけじゃなく、フレデリックというバンド全体がそうだと思う。その上で歌に関しては、バンドとしての覚悟が決まったなって思ったんで。この曲って、みんなでヴォーカルの場所をいつもより広く空けてくれてる感じがあるじゃないですか」
――まさにそうですね。
健司:「だから僕としても、そこに『あざーっす』って感じで入っていくんじゃなくて、むしろ『ここは俺の場所やし、ちょっとくらいハミ出してもいいやろ?』くらいの感じで歌いましたね。『できればちょっとどいて欲しいな』じゃなくて、『(ここは俺の場所だって)わかるよね?』くらいの気持ちでやるようにはしました」
――なるほど。でも、「ここは俺が行くからどけ!」ではなく、「わかるよね?」っていうところが健司くんらしいね(笑)。
全員:「はははははははははははははは」
健司:「それくらいがちょうどいいですね(笑)」
――でも今言ってくれたように、この曲はアレンジ的にも歌をより響かせやすくするゾーニングがなされてますよね。今までもたとえば“ハローグッバイ”だったり、要所要所でそういう曲はあったと思うんだけど、歌を前に出していくんだっていう意識は今までで一番強いんじゃないかと思います。
健司:「その意識はすごく感じたし、実際にこれをアリーナで演奏した時に、一番聴かれるのは自分の歌じゃなきゃいけないなってことを自分でもすごく感じたんですよね。というのも、自分の中でのアリーナ・ライヴって――これは自分が歌を歌ってる人やからかもしれないですけど、歌がよくなかったらアリーナやらないほうがいいなって思うくらい、観てる側の立場としても歌に集中しちゃうんですよ。いろんなアーティストを観てきましたけど、アリーナ・ライヴが似合う/似合わないの基準は、自分の中では全部歌にあって。で、アリーナって発してる言葉が聴こえやすいからこそ、そこで歌われるメッセージの強さもすごく大事になってくる。そういうことを踏まえた上でも、この曲のメッセージ性、自分達がこれからこうやっていくぞって思ってる生きる道みたいなところを、ちゃんと歌で表現して伝えるのが俺の役割だなって思ったんで。そこは今までの意識よりも高く持って歌った覚えがありますね」

――この歌を自分が歌いこなせた背景として、この1年でどんな成長が自分の中にあったと思いますか。
健司:「ああ………あまり考えたことないからわかんないですけど、自分の意識が変わったなって思うのは、前より人と話すようになりました。それは話す頻度が増えたってことじゃなくて、自分の中に隠してたものをよく人に話すようになった。前はメンバーだけで共有してたものや、メンバーだけにしかわかってもらえないだろうって思っていたことを、他の人にも話したりするようになって……そういうことで自分の内面を知ってもらえる人が増えたような気がします」
――そうなったのは、内面をさらけ出すことが自分にとって困難ではなくなったからなのか、それとも、歌い手/表現者として、恐れることなく内面をさらけ出していくということは自分がひとつ越えなければならない壁だと感じたからなのか。どうしてなんだと思いますか?
健司:「越えなければいけないっていう意識的な感じよりは、もうええかなっていう感じですかね。性格的に謙虚過ぎて損するところもあったし……自分で謙虚って言うのもおかしい話なんですけど(笑)。でも、前はそれを盾にして逃げてたところもあったから。ここまでいろんなことをちゃんとやってきたことが、まぐれじゃなくて、自分達の実力なんだってちゃんと理解できてきたからこそ、もう全部さらけ出してもいいんじゃないかって思えたのはあると思います。そこの意識はだいぶ、この1年で変わった気がしますね」

— Chapter-3に続く

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