フレデリックOFFICIAL FAN CLUB「フレハウス」

INTERVIEW

フレデリック
オフィシャルインタビュー
Chapter.3

Text&Interview
MUSICA 編集長 有泉智子

EP『飄々とエモーション』に収められた3つの新曲。
より自由に広がりゆく音楽観と、その裏にある意志。
そしてCMで話題のあの曲の話までーーー。

このオフィシャルインタビューの最終章となるChapter-3は、今回のEPに収録される3つの新曲、“シンセンス”、“NEON PICNIC”、そしてキリンレモンのCMソングとして話題の“シントウメイ”について、話を聞いた。サウンド、リズムアプローチにおいて新たな試みを散りばめながら、確かなる意志の下にその音楽地図を広げていっているエキサイティングな今の彼らを、どうか今回のEPから堪能して欲しい。フレデリックの第二章は、今まさに幕を開けた。

――ではここからはカップリングについて伺います。まず“シンセンス”はディスコなんだけど、でもいわゆるディスコと言われる音楽よりもBPMがかなり速い楽曲で。
高橋:「フレデリックってどんなお客さんも置いていかないことを大事にしてると思ってるんですけど、“シンセンス”は“飄々とエモーション”で見せたい景色とお客さんを繋いでくれる曲だと思ってて。広いところでも合うし、狭いところでやった時のカッコよさも兼ね備えてる曲なので、今回のEPの2曲目にこの曲が入ってるのは凄く意味があることだなと思ってるんですよね。で、BPMに関していうと、広いところで音を鳴らすっていうことを前提にした時、やっぱり今までの曲よりもBPMを少し落としたほうがいいんじゃないかって話をしてたんですよ。でも単純に落とすのは意味がないし、何のメリットもなくて。フレデリックって“オドループ”みたいな曲はBPM170くらいで、“オワラセナイト”とかは150くらい、で、ディスコ調のものは130台が多かったんですけど、そのディスコ調のものをもう少し速くするっていうのは結構いい塩梅なんじゃないかって話は康司くんとしてたことがあって。で、“シンセンス”はそれを体現できた曲だなって思ってますね。これがちょうどBPM140なんですけど」
康司:「このくらいテンポでディスコやるの、めっちゃ難しくて。16(=16分)とかになってくると粒があり過ぎて逆に踊れなくなちゃうんですよ」
――踊るためには体が揺れることができるだけの音の隙間が必要なんだけど、テンポ上がると必然的にその隙間がなくなっていきますからね(笑)。
康司:「そうなんですよ! だから逆にコード進行とか流れはもっとシンプルにしようかなとか、めっちゃ悩みました」
高橋:「リズム隊の絡みの仕方も結構特殊だよね。普通のディスコっぽいフレーズだと成立しないんで、音を減らしてるんですけど。その減らし方がなかなか面白くなったなって思う」
康司:「楽曲自体はこの曲も『囚われずに行きたい』っていう意味を込めてて。シンセンスにはもちろん『新しいセンス』っていう意味もあるんですけど、でも同時に、いろんな人達が各々のセンスの形を作ってる中で、最近、僕にはそれが『囲い』に見える瞬間が多いんですよ。『これを好きだったら、君は違うね』みたいな、そういうニュアンズを凄く感じることが凄く多くて。自分は昔からいろんなジャンルが好きだし、フレデリックっていうバンド自体も、いろんな音楽への理解も取り入れる幅も、他よりも気持ちいいくらいたくさんあるバンドだなって思っていて。で、そういう形は今の人達が持つべき新しいセンスなんじゃないかって、俺はずっと思ってるんですよね」
――ひとつのセンスに縛られるのではなく、柔軟かつ好奇心をもって多様なものを吸収し理解し、自分の中に取り込んでいけることこそが今の時代の新しいセンスである、と。
康司:「はい。それをそのまま言葉にして曲にしました。で、その中で自分達のこれからのひとつとして、音楽的にもシンセも多いダンスチューンとして新しいものを伝えたいなって思って作った曲です」
――歌詞も<アウトサイダー 言葉に手を振って/バイバイ さよなら境界線>、<歯向かってゆけMUSIC>と、カウンター精神のある強い言葉が並んでいますよね。
康司:「反骨精神みたいなものは、常に自分達の中に持ち合わせていて。ただ、その言葉の向け方、伝え方は優しいバンドやと思うんですけど(笑)」
――優しいというか、ユーモアと愛があるよね。とはいえ、この曲はその中でも割と強い言葉が並んでるなと感じたんですが。
康司:「そうですね、歌詞を書いてる時に感情的にはなってたなと思って。どっちかと言うと“まちがいさがしの国”みたいな感情が多かったんですよ」
――それって怒りや苛立ち、悲しみが多かったってこと?
康司:「その頃は凄くそうでした。誰かが『これは違うから』って言うだけでその幅を狭めちゃうのって、僕は音楽シーンによくないことだなって常に思い続けていて。だって、それだと新しいものが生まれないじゃないですか。自由過ぎるのもどこに行ったらいいかわからなくなっちゃうこともあるけど、でも、もっと自由に遊べる場所になったほうがいいよなって気持ちはずっと持ち続けてるんで……でも周りから逆のことを感じることが多くて、それに対する怒りや悲しみの感情が凄く出た曲だなとは思います」
――Aという価値観とBという価値観があったとして、AがBを否定してしまったらA×Bの何かは生まれなくなっちゃう。そういう意味で、相手の価値観を否定することはどんどんクリエイティヴを閉鎖的にしていくし、結果そういう連鎖からは面白い音楽、アートは生まれにくくなるよね。
康司:「そうなんです、その関係はその時も結構感じていたというか。なので、自分の中でこういう曲を書かなきゃいけないなっていうのは勝手な使命感として持ってるんですよね」
――健司くんはこの曲はどうでしたか?
健司:「この曲、元々は『TOGENKYO』の前にデモがあったんですけど、当時は“シンセンス”っていう言葉が自分達の中でハマってなかったこともあって、レコーディングには至らなかったんですよね。でも今は、今の俺らがこのメッセージを出すことが一番刺さるんじゃないかって思えてて。もちろんアレンジも歌詞の内容も当時よりもビルドアップしてるし、今のフレデリックの状態と、これまでやってきたことの積み重ねがちゃんと形になった、新しいフレデリックを見せられてる曲だなって思いますね。あとこの曲、俺がギターを弾いてないんですよ。そのほうが新しいもの、面白いものを作れるんじゃないかなって、一番始めに思い浮かんだ曲で。今までは、ライヴでハンドマイクで歌ってる曲でも、レコーディングでは自分もギターを弾いてたりするんですけど、この“シンセンス”に関しては全部隆児に任せました。だから俺的には隆児が前に出る曲やなって感じてるんですけど」
――隆児くんはその意向を受けてどう思ったんですか。
赤頭:「でもなんか、改めて意識してというよりも、自然な流れとして『この曲はそうやることが似合うやろう』って感じやったんで……まぁでも、自分があんな主張したの、初めてやんな(笑)」
全員:「ははははははは」
赤頭:「ライヴでやっとっても『俺、主張してるな』って思うもん」
康司:「確かに、みんながいる中での主張はあったけど、隆児からっていう主張はなかったね」
赤頭:「うん、ここまで主張したのは初めて。だから初めてライヴでやった時、めっちゃ緊張しました(笑)」
全員:「ははははははははははははは」
――そして“NEON PICNIC“ですが、これは抑制の効いたクールなファンクチューンであり、セクシーなヴォーカルが踊る曲でもあります。
康司:「こういうのをやりたいっていう気持ちがずっと昔からあった曲で。この曲ができたきっかけ自体は、『TOGENKYO』のツアーで台湾に行ってライヴをした時に、夜市とか街の風景が凄く心に残って、それでできた曲なんですけど。夜中に武くんやスタッフと出かけたんですよ。で、僕が行きたかったところにみんなを連れていこうと思ったんですけど、めっちゃ迷っちゃって」
高橋:「うん(笑)」
康司:「その時の、言葉の通じない不思議な場所で変な路地裏に吸い込まれていく感じがめっちゃ魅力的で、その時に感じた異世界感やそこで生まれた感情を言葉や曲にしたいなと思って、そのまま日本に帰って書いたのがこの曲ですね。なので、音楽的にも自分達の好きな風景を大事にしつつ、実際に台湾の夜の街で感じたものが言葉になった曲だと思います」
健司:「この曲もらった時は自分の声をどういうふうにするのか結構悩んではいたんですけど、ちょうどレコーディングのタイミングでジョン・レジェンドのライヴをEX THEATERに観にいって。ほんまに生でも音源と変わらないくらいの歌唱なんですけど、それに加わる空気感のセクシーさというか、そういうものがこの人には当たり前にあるんだってことを凄く感じたんですよ。その後でのレコーディングやったんで、今俺ができることって何なんだろう?ってことを結構考えてたのと、あと、最近の自分の歌い方も色気みたいなものが出ていくようにもなってきたから、そこを全開に出すことでネオンライトっていう繁華街のイメージにもプラスになるんじゃないかと思ったし……それでこういう歌になったところはあります」
――『TOGENKYO』でも、“スローリーダンス”をはじめ、セクシーな色香を宿した歌唱がいくつかありましたけど、この路線はとてもいいよね。
健司:「それが自分の武器になってきたなって、今回の“NEON PICNIC”を聴いて凄く感じるようになってきたというか。やり過ぎたらネチっこくなってしまう部分もあるから抑えたりもしてたんですけど、ちゃんと形にはなってきたなって感じがしますね」
高橋:「この曲は康司くんがデモを持ってきてくれた段階で、今回収録されてる曲の中で一番、健司くんが歌ってることをイメージできる曲だなって思ったんですよ。今の話もそうだけど、健司くんが『TOGENKYO』でいろいろ歌い方を試してたことを、完全に自分のモノになった状態で録ることができる曲だったってこともあると思うんですけど、歌のイメージがより明確にできた曲で。だからリズムの跳ね方も、あくまで健司くんのセクシーさが前に出てメインになるような絶妙な跳ね具合を意識しました」
康司:「めっちゃ悩んだよね。陽気にはならないように」
高橋:「そこは気をつけたよね。跳ね過ぎると陽気になっちゃうんですけど、そうはしたくなかったんですよ。でもそこも歌のイメージに助けられたかも。健司くんの歌自体に独特の跳ね具合があるので、それに寄せてくと自然といい塩梅の跳ね具合になるんですよね。出来上がってみて、想像してた通りのいい曲になったなと思います」
――隆児くんはどうですか?
赤頭:「この曲はデモの段階でめっちゃ好きやったんですけど、でき上がりはデモから結構変わって、それがまためっちゃいいなって思いますね。あと、この曲はギターっていうよりシンセって感じです。ギターは要素のひとつでシンセがメインですって、ギタリストの僕が胸張って言えるくらい、それでいい曲だなって言えるくらい、えーと、なんというか…………わかります?(笑)」
全員:「ははははははははははははは」
――(笑)自分のプレイがどうこう、バンドの形がどうこうよりも曲として純粋に素晴らしいんだと言いたいの?
赤頭:「はい(笑)。これもフレデリックの新しい形やと思うし」
――とはいえギターのカッティングが効いてるんだけどね。
赤頭:「これ、先にシンセ入れてからギター入れたんですよ」
康司:「そう。リズムとか弾くパートは全部決まってたんですけど、先にシンセをメインに考えつつ、その上でバンドが音を入れていくバランスを取っていったというか。そのやり方は初めての試みでもありました」
赤頭:「サビもギターの上にシンセっていうより、シンセの隙間にギター入れてく感じで。やってても新鮮でしたね」
――そういう作り方にしたのはどうしてなんですか?
康司:「今までよりも歌にシフトしたってこともあると思いますね。もちろんバンドのサウンド感も大事やけど、でも歌に寄り添うってことをより重視する中やったからこその作り方だなって」
高橋:「前のほうがバンドのアレンジが固まってからシンセを考えるっていうイメージに近かったんですけど、今回は4人のアレンジを考える段階から、そこに対して頭を回す量がかなり増えたっていう感じですね」
――歌を軸にすることで楽曲の考え方や制作のやり方も変わってきてるんだね。
康司:「これからよりそうなっていく気もするんですよね。俺は、やり方を変えていくのって凄く大事だなって感じてて」
――変化が進化を生んだりしますもんね。
康司:「そうなんです、新しいやり方をすると、それ自体がきっかけになって結構また変わったりするんで」
――そうだよね。で、最後はキリンレモンのCMソングとして書き下ろした“シントウメイ”です。あの超有名な♪キリン、レモン、キリン、レモン〜♪のフレーズから曲が展開していくんですけど、これはどういうふうに作ったんですか?
康司:「元々キリンレモンのあのメロディと、『透明なままで行け』っていうテーマはお題としてあって。つまりAメロの部分はもうメロディが決まってるんですよ」
健司:「あとサビ前にも♪キリンレモン♪を入れる、そして一番最後に♪ランララララララ キリンレモン♪っていうフレーズを入れるってとこまで決まってて」
――それだけ決まってて新曲として作るのって、結構難しくない?
康司:「それが俺、結構すんなりできたんですよ! ちょっと苦戦すると思ってたんで、自分でもびっくりしました。やっぱり、昔飲んでたっていうのもあるからこれを作れるのが嬉しくて(笑)。だから今の考えで作るっていうよりも、少年になった感じでした。自分が少年だった頃に飲んだことを思い出しながら作ったというか。久保選手の生き様だったりも含め、いろんなところに無邪気な頃の自分を重ね合わせて作っていったら、すぐできて。なんか新しいリフレッシュ感はありましたね。今年28になったんですけど、本当に常に『今』って感じでやってきたから、中学・高校の頃を振り返ることもそんなになかったんですよ。でも、この話が来た1日だけはタイムスリップしたかのような形でバッとすぐ作れたし、僕自身、若い頃に曲を作ってた感覚を思い出せた感じがしました」
健司:「デモができ上がった時も、『え、めっちゃいいやん!』って思ったのが正直な感想で。でも、まさかキリンレモンのCMに自分の声が流れるっていうのは想像してなかったし、自分の声で♪キリン、レモン〜♪が流れるなんてことも想像してなかったし」
康司:「そうだよな(笑)」
健司:「だから凄くありがたい、面白い話もらったなと思ったし、だからこそ、ちゃんと自分をそのまま出していこうって思いましたね。だから本当に自分らしく……たとえばCMで流れた時に『これ絶対に健司やん! 絶対フレデリックやん!』ってなるくらいにしようって思いました」
赤頭:「バンドの新曲でもあるけどお題もあったりして、100%フレデリックなんやけど、そうでもないような感じで、なんか面白いですよね。作ってる時も、『フレデリックならこう!』っていうだけじゃなくて、コーラスエフェクターを踏みっぱなしにしたりとか、いつもと違うこともやってみたりしたんですよ。ほら、炭酸のイメージやから合うかなと思って」

――なるほど(笑)。武くんはどうでした?
高橋:「僕はもう、デモをもらった時から凄い!って思って。康司くん天才なんだなって本当に思った」
康司:「(笑)」
高橋:「フレデリックって本当にみんな何でもできるって思ってるんですけど、逆に『ここはこう』って限定されたものがあったからこそ、より工夫して作れたんじゃないかなって思って。たとえばブレイクビーツ的なビートって、意外とフレデリックはやってなかったんですよ。でも、こういう健司くんが綺麗に爽やかに歌い上げてる中だと凄くマッチするんだなっていう発見があって。これはメロディの制限がないと出てこなかったものだなって思います。そういう、お題があるからこそ出てきたオリジナリティに気づけたので、本当に楽しかったです」
――という形で全曲振り返りましたが、結果、より間口の広いアプローチと同時に、このバンドの音楽的引き出しの深さ・レンジの広さがいい形で表れた1枚になりましたね。フレデリックって昔から、確かにシーンの中にはいつつも、でも実はどのシーンにも属してないっていうイメージがあったんですけど、いよいよその道を驀進してますね。
全員:「はははははははははは」
――そういうバンドがアリーナ単独公演を成功させるところまで来たっていうのは本当にとても凄いことだと思うし、だからこそこの先がさらに楽しみです。
康司:「ありがとうございます。とっつきやすい特別っていうか、そういうバンドになっていけたらいいなって思いますね。そのほうが新しい道も見えてくるんじゃないかと思うし。音楽の楽しみ方を幅広くしていきたいっていうのはバンドの目標として持ってるので、これからもそうしていけるようなバンドになりたいなって、改めて強く思ってます」

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